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図−1 海洋表層における生物群集と非生物有機物の大きさの分布およびその密度

ることができるが、この装置だけではそれが生物なのか、そうでないのかは知ることができない。従って顕微鏡等で同じ海水を覗き、植物プランクトンなどの生物群衆を大きさ別に数えてその値を差引いてやらなくてはならない。我々は同じような原理を持つ装置で、なおかつ粒子をより高感度で測定できる新しい粒子カウンターを用いて、海洋のバクテリアの大きさの範囲である、1ミクロン以下の懸濁粒子の計数に成功した。同じ海水のサンプルで同時に行ったバクテリアなど生物群集の数と比較すると、この0.4-1.0ミクロンサイズの非生物粒子はバクテリアなどよりはるかに多く、表層では1ml中に1,000万個もあることがわかった。この果多しい数の非生物微小粒子の発見は、海水中の生物起源の有機物が単純に溶存および懸濁粒子の2つに区分されるのではなく、その大きさが連続的に変化していることを示すものとして注目され、我々はこれらの微小粒子に“サブミクロン粒子”と名前をつけた。
さらにより小さな懸濁粒子は、強力な遠心機で長時間海水を遠心処理することによって沈降してきた粒子を、電子顕微鏡で大きさを調べて数えることができる。このような方法を組み合わせることにより、現在では大きさがほぼ1mmの百万分の1の微小粒子から、数cmもあるマリンスノーのような巨大粒子までの大きさの有機物テトリクスが、いわば生物廃棄の有機物のごみとして無数に海水中を漂っていることがわかってきた。またその数は小さい方にいくに従って多くなり、ナノミクロンサイズの微粒子は1ml中に100億個も存在している。図−1に併せて海洋表層でのこれらの非生物粒子の大きさの範囲とその数をまとめてある。
すでに述べたように海洋の化学の分野では約0.6-1.2ミクロンの孔を持つフィルターを通過するものを溶存有機物、フィルターにつかまるものを懸濁あるいは粒状有機物と総称してきた。しかし写真−2に示したようにこれらのフィルターを通過する、数多くのバクテリアやウイルスなどの生物粒子や非生物の微細な有機物粒子の発見は、これまでのフィルターによる溶存と粒状の有機物の仕分け方に大きな問題を投げかけた。バクテリアは明らかに生物であるが、そのかなりの部分がこれまでの定義によると溶存有機物になってしまうのである。従って現在では、海洋中の有機物は、その大きさから3つに大きくわける考え方が一般的となり、生物・非生物を含めて大きさが1ナノメーター以下を溶存有機物、約1ミクロン以上を懸濁あるいは粒状有機物、そしてその中間をコロイド態有機物と呼ぶようになった。このコロイドという言葉は元々大きさが1ナノメーターから約1ミクロンまでの粒子に対して、実験室での溶液化学で付けられた名称である。この定義に従えば、コロイド態有機物には、バクテリアやウイルスなどの生物コロイドと、生物起源の有機物からなる有機物コロイドがあることになるわけである。
海洋の平均水深は約3,800mあり、外洋に出ると4,000-5,000mの海域が多い。そこで我々によって測定

 

 

 

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